高専衛星KOSEN-1で世界初の姿勢制御実験に成功 〜新しい衛星用姿勢制御装置を開発し宇宙で実証〜

 10高専(高知高専、群馬高専、徳山高専、岐阜高専、香川高専、米子高専、新居浜高専、明石高専、鹿児島高専、苫小牧高専)が開発したKOSEN-1衛星により、新しい衛星用姿勢制御装置「デュアル・リアクションホイール」を使った、宇宙での高速かつ高精度な姿勢制御の実証実験が成功しました。この新しい方式のデュアル・リアクションホイールが衛星に搭載されるのは初めてで、世界初の姿勢制御の実験成功となります。

 

 超小型衛星KOSEN-1は、JAXAのイプシロンロケット5号機により、JAXA内之浦宇宙空間観測所から2021年11月9日9時55分16秒(日本標準時)に打ち上げられました。このKOSEN-1衛星は、2018年12月にJAXAの革新的衛星技術実証2号機の実証テーマに選定され、50名を超える高専生を中心に2年半かけて開発されたもので、三つの新しい宇宙技術実証が予定されています。今回、その技術実証の一つとなる姿勢制御装置「デュアル・リアクションホイール」による超高精度姿勢制御の宇宙技術実証が行われ、その実証実験に成功しました。

 

 従来の衛星姿勢制御用リアクションホイールは、姿勢制御する軸に対して一つのホイール(円盤)が実装されていますが、今回、群馬高専で考案、開発された革新的な姿勢制御装置「デュアルリアクション・ホイール」は、薄型化された二つのリアクションホイールから構成されます。それぞれのリアクションホイールを反対方向に時間差を付けて回転させることで、衛星本体の向きを高速かつ高精度に変えることができます。また、リアクションホイールを薄型化するために、回転軸に対してコイルを横配置させた電動モーターを独自開発し、平面リアクションホイールとして、超小型衛星KOSEN-1衛星への実装を実現しています。(公開特許 モーター  特許第5649203号 PCT JP2015/055319 米国特許 US9722477B2)

 

 KOSEN-1衛星の中央部に搭載された新しい方式の姿勢制御装置「デュアル・リアクションホイール」
 KOSEN-1衛星の中央部に搭載された新しい方式の姿勢制御装置「デュアル・リアクションホイール」
 
平面リアクションホイールの内部構造(左)とその外観(右)
平面リアクションホイールの内部構造(左)とその外観(右)

 

【宇宙での実証実験について】

 超小型衛星は、開発コストが少ないことや、開発に要する期間が短いことから、今後の宇宙市場の発展において大きな役割を担うことが期待されています。しかし、超小型衛星は、その性質上、スペースや電力供給の点において厳しい制約を受けます。また、可動部を装備することが難しく、通常の大型衛星に装備されている姿勢制御装置を実装することは困難な状況にあります。これらの課題を克服するために、超小型衛星に実装可能なデュアル・リアクションホイールシステムを開発し、宇宙での実証を行いました。

 

 このデュアル・リアクションホイールシステムは、下図のような二つのリアクションホイール(ホイール①とホイール②)を逆方向に、時間差を持たせて回転を開始させることで、衛星の機体の姿勢制御を行うものです。もし、二つのホイールが時間差のない全く同時にお互いに逆回転した場合は、トルクが打ち消されて動きませんが、適切な時間差を設定することにより、所定の角度に回転させることが可能となり、宇宙での高速かつ高精度な姿勢制御が可能となります。今回開発されたデュアル・リアクションホイールは、超小型衛星においては収納スペースに厳しい制約がありますので、新たに超薄型の平面モーターが開発されました。実際にKOSEN-1衛星に搭載されたものは、高専生が手作りで製作した二つの平面モーター(平面リアクションホイール)により構成されています。

 

【図3】デュアルリアクションホイールの説明図_20220408.jpg

【注記】

 リアクションホイール:人工衛星の姿勢制御として使われているもので、1つのフライホイール(円盤状のはずみ車)を電動モーターで回転駆動することにより角運動量を発生します。X軸、Y軸、Z軸方向に3つのリアクションホイールを人工衛星に搭載することにより、宇宙空間で任意の方向に姿勢を変えることができます。

 

 下図は、姿勢制御装置「デュアルリアクション・ホイール」の実証実験の1例で、2つのリアクションホイールの動作の時間差を「3秒間」に設定して姿勢制御を実施しました。実施前の地球の画像をKOSEN-1衛星に搭載された広角カメラ(画角160度)で撮影した連続写真(10秒間で衛星の静止状態を確認)と、姿勢制御実施後の連続写真の撮像データから、目標の姿勢制御角に合うことが確認されました。実験例としては、地上から「3秒間で46度回転」との指示を送ることにより、制御装置内で二つのホイールが回転し、45度回ることがデータ解析で確認することができました。これは、1度の誤差となり、このミッションのエクストラサクセスの基準の「誤差5度以内」の精度を、実現したことになります。

【図4】姿勢制御の説明図関係_20220802a.jpg

 今回の宇宙実証に成功した姿勢制御装置「デュアル・リアクションホイール」は1軸ですが、2軸とすることで、3次元的な姿勢制御を行うことも可能となります。「デュアル・リアクションホイール」は、原理的に姿勢制御する時だけの電力消費となりますので、今後、小型・省電力姿勢制御システムとして宇宙での利用が期待されます。なお、この「デュアル・リアクションホイール」は、今年度打ち上げ予定の、JAXAの革新的衛星技術実証3号機のKOSEN-2衛星にも搭載されることになっています。

 

 

【KOSEN-1衛星プロジェクトについて】

 KOSEN-1衛星は、木星から放射される自然電波を衛星で観測するための最新の技術を実証することを目的とした、木星電波観測技術実証衛星です。この衛星の開発は、高知高専と群馬高専を中心とした10高専(高知高専、群馬高専、徳山高専、岐阜高専、香川高専、米子高専、新居浜高専、明石高専、鹿児島高専、苫小牧高専)の高専間連携プロジェクトになります。

 

 このKOSEN-1衛星開発は、平成26年度に採択された文部科学省の実践的若手宇宙人材育成プログラム「国立高専超小型衛星実現に向けての全国高専連携宇宙人材育成事業」(代表者:高知高専・今井一雅)、平成29年度宇宙航空人材育成プログラム「超小型衛星開発を通した高専ネットワーク型宇宙人材育成」(代表者:徳山高専・北村健太郎)、そして令和2年度宇宙航空人材育成プログラム「継続的な超小型衛星開発・運用を通した次世代の高専型宇宙人材育成」(代表者:新居浜高専・若林誠)の事業として継続的に行われてきたものです。

 

 

【参考資料】

(1)JAXAホームページ:

・木星電波観測技術実証衛星「KOSEN-1」インタビュー記事

https://www.kenkai.jaxa.jp/kakushin/interview/02/interview02_16.html

・JAXA革新的衛星技術実証2号機/イプシロンロケット5号機特設サイト

https://fanfun.jaxa.jp/countdown/kakushin2-epsilon5/index.html

・JAXA革新的衛星技術実証2号機

https://www.kenkai.jaxa.jp/kakushin/kakushin02.html

(2)YouTube:JAXA革新的衛星技術実証2号機/イプシロンロケット5号機

フライトシーケンスCGの紹介 https://youtu.be/pLghraclhXs

(3)新居浜高専ホームページ:文部科学省「宇宙航空人材育成プログラム」に採択されました

https://www.niihama-nct.ac.jp/2020/07/22/entry-topics-19090/

(4)高知高専ホームページ:10高専が開発した「超小型衛星KOSEN-1」の打ち上げ成功

について

http://www.kochi-ct.ac.jp/news/archives/649

 

  2022/08/05   企画係